理工学系技術部長挨拶

理工学部における潤滑剤

(ソフトパス)としての期待

理工学系技術部長 八代 仁

 岩手大学工学部が理工学部に改組して4年が経ちました。理工融合によるイノベーション創出を図るとともに、学生に対してはより幅広い物の見方や協働性を植え付けることが目的です。もちろん、これらを実践していくのは教員の仕事ですが、事務職員、技術系職員ととともに三位一体となって教育研究を進めていくことが必要です。
 工学部が理工学部に改組してから、工学部と理学部との違いを問われることが増えました。工学はそもそも理学(基礎自然科学と数学)を基礎としており、必要に応じて人文科学や社会科学の力も借りながら、人類にとって有用なものやことを具現化することを目的とする学問です。したがって社会のニーズにより近い位置にあり、多くの教員の視線も社会に向けられています。一方、理学という学問は広い意味での哲学的行為のひとつであり、月並みな言い方を借りれば「真理の探究」がその本質です。必然的にその探究者の視線は社会的活動にはあまり向けられません。このように、理工学部になったことで、教員の多様化が進んだことは間違いありません。
 このような構造の中で、理工融合がシナジー効果を生むためには、潤滑剤が不可欠ではないかと思われます。教員間、研究室間の敷居は意外と高いものです。私自身、他の研究室の中をのぞき込んだりすることはほとんどなく、どこにどのような装置があるかもほとんどわかりません。幸か不幸か、今日の技術系職員の方は、複数の研究室を支援することが普通となり、組織化されたことによって、技術系職員通しの情報交換も容易になっているようにみえます。
 潤滑剤としての期待は、研究室間だけではありません。教員によっては社会への窓口があまり大きく開かれていない場合もありますが、きっかけさえあれば大いに活動を始める人もいます。もちろん大学にはそのための機構が存在してはいますが、きめ細かな支援を期待するにはあまりにも人的資源が限られています。私の希望としては、技術系職員の方にこそ積極的に社会との接点をもっていただき、場合によっては教員を巻き込むなど、学部内にフィードバックしていただければと思っています。最初は余計な事を、と嫌うひともでるかもしれませんが、好事例を積むことで必ず理解が得られると思います。
 理工学部では「ソフトパス」を標語にしています。いうまでもなく、Amory Lovinsの”Soft energy path”からの転用ですが、最近は”soft water path”という言葉も使われるようになって、「ソフトパス」の概念がより広まりつつあるようにみえ、気を強くしています。多少意味の異なる恣意的転用で恐縮ですが、技術系職員の方が、理工学部の中のソフトパスとして機能していただけることを期待する次第です。