TEMのピント合わせ はじめに

私は,TEMのほかにSEM(走査型電子顕微鏡)も経験があるのですが,SEMと比較すると,TEMのピント合わせは格段に難しいです.

SEMのピント合わせに必要なのは,ある程度コントラストが調整できている場合,Focusと非点のつまみだけですが,TEMではさらに光軸の調整が加わってきます.

さらにTEMではコントラストが乏しく,非点がでたときの像の流れがわかりづらいです.試料の中の適切な位置(アモルファスパターンなど)を見つけ,Focusをわざとずらしたり,ビームの大きさを変えながら,像の流れ,コントラストのバランスを見ながら非点を調整していきます.

最近のTEM修行で,ローレンツTEMをやっているうちにピント調整と非点除去のコツが見えてきましたので,何回かに分けて報告したいと思います.(最終的に高分解能TEMでのピント合わせまでいければいいですが,果たしてうまくいくでしょうか?)

なお,我々のTEMは,フィリプス社 TECNAI30 Lorentzです.他のTEMを全く知らないので,操作を説明する際,TECNAIで用いられる用語をそのまま用いるので,他の会社のTEMの参考にならないかもしれません.

また試料は鉄系の強磁性材料がメインになります.

(つづく)

あなたは一体、何モノなの?

皆さんは他人である個人を識別するとき、どのようにしていますか?
知り合いならば恐らく「顔」を見れば、その人が誰だか分かりますよね。
もしかしたら「声」を聞くだけでも分かるかも知れません。
実は物質にも「顔」があります。
『はぁ? どこに?』

まぁ残念ながら、肉眼で見るにはチョット厳しい大きさですが・・・。
でも「ある道具」を使うと見られるんです。それが「X線回折装置」です。
では早速、その「顔」を見てみましょう。

『ダマされた・・・・、ただのグラフか・・・・・(怒)。』
おっしゃるとおり、ただの「グラフ」ですが、実はこれが物質の「顔」なのです。
しかも、左側の方は彫りのはっきりしたなかなかのナイス・ガイ(?)です。
『それじゃぁ~、どこが目で、鼻で、口なのよ~』と思った方は、まぁ冷静に。
もう一つ、右側の別の「顔」も見てみて下さい。
こちらはまた特徴的な「顔立ち」です。もしかしたら「ハーフ」か「クウォーター」かも。

これら二つの「顔(=グラフ)」の山と谷を比べてみると、皆さんも気づいたでしょう?
そう、この二つの物質が全くの「別人」であることに。
『まぁ、別な人だとは分かったけど、それじゃぁ、一体誰なのさ?・・・・』
確かにそこまで知りたいというのが人情ですよね。

もともと知り合いの人同士ならば、顔を見れば誰だか分かるし、その人の名前も知っているのが普通です。では、全くの見ず知らずの人だったらどうでしょうか?
初めて会った人だったとしたら、何の手がかりもないですよね。
もちろん名前なんて分かるはずもありません。

<チョット、break time>

最近、テレビでは「刑事ドラマ」が盛んに放送されていますね。
それにしても「イケメン刑事」ばかり・・・・(苦笑)。
刑事さん達は毎日、凶悪犯との攻防を繰り広げています。
その刑事さん達にとっても、必死に追いかけている犯人は見ず知らずの人です。相手が日本人なのかどうかすら分かりません。だから参考となる情報が是非とも欲しいわけです。
「プロファイリング」って言葉を皆さんは耳にされたことはありますでしょうか?
警察には過去に発生した事件のデータが蓄積されています。今まさに追跡すべき犯人が関わっている事件の特徴をこのデータベースと照合することによって、「犯人像」を導き出すという手法です。行動範囲、職業、年齢層、性別などなど、「顔」を知られていない犯人の姿を何となく浮かび上がらせることが出来ます。これを絞り込んで行くとやがて犯人の名前が分かり、そして「顔写真」が入手できることもあるでしょう。

<Now, time up>

「X線回折装置」には10万件の物質データが蓄積されています。
しかも全部「顔写真」付き。
『いゃ~、これで助かった。百人力だな。』
では早速、先の二つの物質の「顔」をデータ照合してみましょう。

すると、一人目は「Si(シリコン)」さん。

そして、二人目は「Al2O3(酸化アルミニウム)」さんだと判明。
(両者とも、赤色の「顔データ」に緑色の「蓄積データ」がピッタリと一致しています。)

『いやいや全く、手こずらせやがって・・・・。ついに正体を曝いたぞ(満足)。』
めでたし、めでたし。

でも実はこんなに上手く正体を突き止められるのは、珍しいこと。
現実の物質には様々な不純物が知らず知らずのうちに混ざり込んでいることが多いのです。
従って、『右から見ると「Aさん」なんだけど、左ナナメ下から見ると「Bさん」なんだよなぁ~』というケースに泣かされることもしばしばあります。

岩手大学にはこういうことができる最新の装置がありますよ。
皆さんも、物質の「顔」を一度、見てみませんか?

(著:材料機能技術分野メンバー)

2つの引張試験機

私は前期に,2つの学生実験(材料工学)を担当しており,ともに引張試験機(以下試験機)を使用し,金属の試験片を引っ張っていますが,それぞれ別の試験機を使っています.

1つは,ロードセルタイプの試験機で電気的に荷重を測定する比較的新しいタイプ(左)のもの.もう一つは,油圧式のかなり古い試験機(右)で す.

使ってみると,当然新しい試験機が便利に決まっているのですが,新しいほうではどうもうまくいかないことがあるんです.引張試験片にひずみゲージというセンサーを張り付け,引っ張 りながらひずみを計測するという実験があるのですが,新しい試験機でこれをやろうとすると,ずみ計の値が安定せず測定不能に なるんです.おそらくノイズがのってるんだろうと思って,各部をアルミ箔で覆うなど対策をしてみましたがだめで,結局,油圧の古い試験機を使うことになっ たという経緯がありました.

ただ,古い試験機は油圧の加減で引張荷重を調整するのですが,その調整の仕方が超アナログチック!下の図のようにつまみを微調整して引張荷重を決めるのですが,なかなか荷重の値が安定せず,学生はかなり苦労します.つまみの先端を1mm動かしただけで荷重がかなり変化してしまいますから,指の先でそおぉっと触れる感じで調整しなければなりません.デジタル時代の学生にはいい経験になるのかなと思いますね.

電子顕微鏡(TEM) 試料作りから観察まで

私が扱うのは,透過型電子顕微鏡(TEM:テム)と呼ばれるもので,最初は何も知らなかったため,TEMを管理してくれと言われた時は,なんか面白そうぐらいにしか考えていなかったんですが,時がたつに従って,何やら大変そうな雰囲気が・・・.最初の1年は必死だったな~.

面白そうなので,試料作りから観察までの手順を簡単に書いてみようと思います.一体いくつ手順があるかな?

ちなみに私の場合,試料は金属材料専門になりますので,それ以外(生物系試料等)の場合は参考にならないと思います.

手順   (括弧内の数値は難易度 1:容易~5:難関)

  1. 直径3mm 厚さ1mm以下の試料を切り出す(2)
  2. 機械研磨により,50μmの厚さまで,両面を鏡面に研磨する(
    最初はここでつまづきます.研磨しすぎて試料を消滅させる学生も!
  3. 電解研磨により,試料の一部をさらに薄く(数10nmのオーダー以下)まで薄くし,電子線が透過する厚さにします(
    折角2をクリアしても,3を失敗するとすべて無駄.腐食させて使い物にならないことも・・・
    ある程度慣れてきても,成功率は1/3.学生には厳しい試練です.
  4. ここからTEMの操作です.まずスタートアップさせます.(2)
    補器が多いので,チェックしながら行います.電源,水,CCD,MOドライブ,TEM本体,PCの順でOnにしていきます.
  5. TEMのソフトウェアを立ち上げる(2)
  6. 真空をOnにして,真空度が高くなるまで待ちます
    0からスタートだと半日待ち.スタンバイ状態からだと1時間待ちくらい
    あと,TEM起動中は常に温度と湿度に気を使います.温度が20度を超えると
    真空度が悪くなるので,観察できません.冬はストーブも付けられず,修行の場と化します
  7. 電子線を発生させるため電圧を300kVまで上げます (
    急いで電圧を上げると鏡筒内で「カツッ」と恐怖の音がなって放電が起き,真空ごと落ちてしまいます.6 からやり直しです.ともかく電圧が高いほどゆっくり上げることです.
  8. 電子線を発生させるフィラメントに電流を流す(1)
    2分くらいまちます.
  9. 試料をホルダに入れる(3)
    すごく小さく軽い試料なので,ちょっとしたことで,ふっとんだり,折れ曲がったりします.苦労して作った試料を無駄にしないために細心の注意(冬は静電気にも注意)を払いながらピンセットでつまみ,ホルダへ正確に載せます.もちろんホルダの先端部,試料を素手で触ることは厳禁です.
  10. ホルダをTEMに挿入(3)
    慎重に挿入しないと,真空が落ちて6からやり直しになります.
  11. バルブを開いて電子線を出す(1)
    ここで初めて像が見えるようになります
  12. 光軸のアライメントを行う(3)
    高倍率(数万倍以上)できれいな像をとるとき必須です
  13. ステージを動かして,試料を見つける(2)
    初めての人は試料(の薄い部分)を見つけるのに一苦労します.
  14. 試料の高さを合わせ,ピントを合わせます(2)
  15. ここからはTEMの一般的な明視野像をとる場合の手順です.まず回折像モードします.(1)
    この辺から説明がさらに専門的になりますが,かまわずに進めます.
  16. ステージの角度を調整して,回折像の2点が明るく光っている状態(2波回折条件)に合わせます(3)
  17. 明るい2点のうち透過波のみが見えるように対物絞りを入れます.(1)
  18. 回折像モードを解除すると,試料の組織に従ったコントラストが現れます.
    対物絞りを入れないと,コントラストがないもやっとした像になります.
  19. 非点をとる(?)()
    あまり高倍率の写真をとらないので私はあまり経験がありません.
    超難関で要修行の項目です.
  20. 電流軸中心を合わせる(2)
    光軸がしっかりとまっすぐになるように調整します.指示に従って操作するだけです.
  21. 写真を撮る(
    CCD,フィルムのどちらかを使いますが,一長一短があり,なかなか面倒です.

ざっくり説明しても21項目ありました!難易度の4,5のところをもっと詳しく説明すれば,内容がさらに倍くらいに増えそうです.明視野像で取れる像が以前紹介したこの図です.あと,原子配列を見たいと思ったら,16~19が全然変わってきます.

現在の課題は数万倍でのピント合わせがいまいちなことです.ピント合わせがうまくいったら,また報告したいと思います.

X線回折装置のマニュアルを動画で作成

今年から,マテリアル工学科に導入されたX線回折装置(XRD)の管理者になりました.管理者に指定された段階でXRDの使用経験ゼロ! これってどうなのと思いながらも,XRDの講習会に参加し動画撮影しました.初めて使う装置だと講習会に参加しただけでは覚えられないので,こういう場合は個人的に動画として残すようにしてます.そして5時間くらいの動画を1時間くらいに編集し,希望する皆さんにお配りしました.(書けばあっという間ですが,編集はしんどかった) 苦労の甲斐あり,おかげさまで,ご好評をいただいております.動画にするとイメージがつきやすいですからね.

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