電子顕微鏡(TEM) 試料作りから観察まで

私が扱うのは,透過型電子顕微鏡(TEM:テム)と呼ばれるもので,最初は何も知らなかったため,TEMを管理してくれと言われた時は,なんか面白そうぐらいにしか考えていなかったんですが,時がたつに従って,何やら大変そうな雰囲気が・・・.最初の1年は必死だったな~.

面白そうなので,試料作りから観察までの手順を簡単に書いてみようと思います.一体いくつ手順があるかな?

ちなみに私の場合,試料は金属材料専門になりますので,それ以外(生物系試料等)の場合は参考にならないと思います.

手順   (括弧内の数値は難易度 1:容易~5:難関)

  1. 直径3mm 厚さ1mm以下の試料を切り出す(2)
  2. 機械研磨により,50μmの厚さまで,両面を鏡面に研磨する(
    最初はここでつまづきます.研磨しすぎて試料を消滅させる学生も!
  3. 電解研磨により,試料の一部をさらに薄く(数10nmのオーダー以下)まで薄くし,電子線が透過する厚さにします(
    折角2をクリアしても,3を失敗するとすべて無駄.腐食させて使い物にならないことも・・・
    ある程度慣れてきても,成功率は1/3.学生には厳しい試練です.
  4. ここからTEMの操作です.まずスタートアップさせます.(2)
    補器が多いので,チェックしながら行います.電源,水,CCD,MOドライブ,TEM本体,PCの順でOnにしていきます.
  5. TEMのソフトウェアを立ち上げる(2)
  6. 真空をOnにして,真空度が高くなるまで待ちます
    0からスタートだと半日待ち.スタンバイ状態からだと1時間待ちくらい
    あと,TEM起動中は常に温度と湿度に気を使います.温度が20度を超えると
    真空度が悪くなるので,観察できません.冬はストーブも付けられず,修行の場と化します
  7. 電子線を発生させるため電圧を300kVまで上げます (
    急いで電圧を上げると鏡筒内で「カツッ」と恐怖の音がなって放電が起き,真空ごと落ちてしまいます.6 からやり直しです.ともかく電圧が高いほどゆっくり上げることです.
  8. 電子線を発生させるフィラメントに電流を流す(1)
    2分くらいまちます.
  9. 試料をホルダに入れる(3)
    すごく小さく軽い試料なので,ちょっとしたことで,ふっとんだり,折れ曲がったりします.苦労して作った試料を無駄にしないために細心の注意(冬は静電気にも注意)を払いながらピンセットでつまみ,ホルダへ正確に載せます.もちろんホルダの先端部,試料を素手で触ることは厳禁です.
  10. ホルダをTEMに挿入(3)
    慎重に挿入しないと,真空が落ちて6からやり直しになります.
  11. バルブを開いて電子線を出す(1)
    ここで初めて像が見えるようになります
  12. 光軸のアライメントを行う(3)
    高倍率(数万倍以上)できれいな像をとるとき必須です
  13. ステージを動かして,試料を見つける(2)
    初めての人は試料(の薄い部分)を見つけるのに一苦労します.
  14. 試料の高さを合わせ,ピントを合わせます(2)
  15. ここからはTEMの一般的な明視野像をとる場合の手順です.まず回折像モードします.(1)
    この辺から説明がさらに専門的になりますが,かまわずに進めます.
  16. ステージの角度を調整して,回折像の2点が明るく光っている状態(2波回折条件)に合わせます(3)
  17. 明るい2点のうち透過波のみが見えるように対物絞りを入れます.(1)
  18. 回折像モードを解除すると,試料の組織に従ったコントラストが現れます.
    対物絞りを入れないと,コントラストがないもやっとした像になります.
  19. 非点をとる(?)()
    あまり高倍率の写真をとらないので私はあまり経験がありません.
    超難関で要修行の項目です.
  20. 電流軸中心を合わせる(2)
    光軸がしっかりとまっすぐになるように調整します.指示に従って操作するだけです.
  21. 写真を撮る(
    CCD,フィルムのどちらかを使いますが,一長一短があり,なかなか面倒です.

ざっくり説明しても21項目ありました!難易度の4,5のところをもっと詳しく説明すれば,内容がさらに倍くらいに増えそうです.明視野像で取れる像が以前紹介したこの図です.あと,原子配列を見たいと思ったら,16~19が全然変わってきます.

現在の課題は数万倍でのピント合わせがいまいちなことです.ピント合わせがうまくいったら,また報告したいと思います.