タイ王国キングモンクット工科大学ラカバン校の技術職員との技術交流会を開催しました

2023年7月24日(月)~25日(火)の両日(来日は7月23日(日)~26日(水)の4日間)、タイ王国キングモンクット工科大学ラカバン校から2名の技術職員をお招きし、理工学系技術部との技術交流会を開催しました。

技術交流会のプログラムと、各プログラム対応者の所感等を以下にまとめます。

7/24(月)

 AM:実験系廃液回収施設の見学 (鳴海技術専門職員)

 PM:分析装置の説明と操作デモ

    ・MSおよびGC-MS (吹上技術専門職員)
    ・NMR (田沼技術職員)
    ・多機能XRD(SmartLab) (藤﨑技術専門員)

   WelcomeParty (齊藤技術専門職員)

7/25(火)

 AM:ArduinoやChatGPTを用いた実技研修 (庄司技術職員、紺野技術職員)

 PM:Excursion (千葉室長、藤﨑技術専門員、庄司技術職員)

中央:千葉寿室長 左:Saisudawan Sutthiyan氏 右:Peerapat Kraiwattanawong氏

主対応者の所感:

 ■実験系廃液回収施設の見学対応

廃液回収と試薬の空容器回収を見学してもらった。
岩手大学のように全学部の廃液をまとめて処分することがないそうなので、廃液の分類や、回収の頻度、作業人数、廃液タンクの容量など質問された。
廃液に関しては、法律によるルールと処分業者や大学によるルールがあるので、その点についても聞かれた。
試薬の空容器回収の見学では、自作の薬品管理システムを見てもらい、空容器を廃棄するときのQRコードの解除を体験してもらった。

■MS/GC-MS/NMRの紹介とデモ

NMRの紹介と測定デモを行う田沼技術職員

地域共同研究棟に設置されている全学共同利用装置のNMR、MS、GC-MSについて紹介した。
NMRでは標準サンプルを用いて測定を行いながら、装置の原理について簡単に説明をした。
MS、GC-MSの紹介では同一サンプルを各装置で測定し、得られる分析結果の違いについて説明した。 また、外部利用について興味を持っていただき、利用方法についての紹介も行った。
慣れない英語での説明は大変であったが、お互いの装置について情報を交換することもでき、良い経験となった。

■多機能XRD(SmartLab)の紹介とデモ

説明後、SmartLabの前で記念撮影(右: 藤﨑技術専門員)

この3月に新たに導入された多機能X線回折装置SmartLabについて、特徴的な「2D-GIWAXS」のデモ測定をしながらその機能について紹介した。
KMITLでもX線回折装置は日常的に使用しているとのことだったが、 SmartLabの2D測定によるイメージプロファイルは興味深くとらえたように見受けられた。
同じ技術職員とはいえKMITLでの業務は本学とは若干異なっており、どのように紹介すれば良いか迷った部分もあったが、結果、比較的スムーズにディスカッションができたことは幸いだった。

 ■WelcomeParty

タイ南部で夏祭り中のみ販売されるお菓子

懇親会は、コロナ禍で実施できなかった理工学系技術部の歓迎会と合同で開催した。会場はビアベースベアレン盛岡駅前店で、盛岡の地ビールと料理を堪能していただいた。 また、タイからのカラフルなお菓子をお土産でいただいた。タイ南部の夏祭りの際に売られる珍しいお菓子とのこと。お店の許可を得てその場でごちそうになったところ、面白い食感に参加者一同にぎわった。 2次会ではスマートフォンでタイの曲を再生してカラオケをするという技で楽しく盛り上がった。

 ■ArduinoやChatGPTを用いた実技研修

Arduino でのプログラミングに挑戦する様子

電気電子通信コースの学生実験教材として扱っているArduinoと、千葉寿技術室長らが開発を進めている警報通知システムの紹介を行った。また、2023年3月の研修で製作した、Arduinoを用いたCO2測定・警報通知システムのデモンストレーションを行った。Arduino未経験のKMITL技術職員にChatGPTを利用しながらプログラム作成を行って頂き、Arduinoに所定動作をさせることに成功した。ChatGPTをうまく活用するとプログラム作成・理解の一助となりその有用性を実感してもらえたと感じる。さらにChatGPTでプログラムの意味や説明をタイ語で出力する等も行い、帰国後もKMITLの業務に活かせるような実践的な研修となった。

 ■Excursion

盛岡八幡宮の境内での記念写真(右から2番目:庄司技術職員)

盛岡市内を一望できる岩山展望台や伝統的神社である盛岡八幡宮を参拝した。盛岡八幡宮には九星気学別の今年の運勢が掲示されており、来訪くださった二人の生まれ年が何にあたるのか、示されている運勢はどういう意味なのかの話で盛り上がったのが印象に残っている。また、市内の主要観光地などを巡った後、大型ショッピングセンター等で買い物を楽しんでいただいた。家族や友人らからのリクエスト商品を一緒に探す時間は宝探しさながらで、一層深くコミュニケーションが取れた時間になった。

===番外編===

■1日目の昼食対応

回転寿司の皿タワーを前に楽しむ二人。

せっかくの来日なので…と、注文型の回転寿司店で昼食を取った。
タイにも回転寿司はあるが、天ぷらや他の和食も含み時間内食べ放題のようなシステムでの提供になっているとの話もあり、食事一つとっても国によってサービスに違いがあることが面白く、また印象深かった。

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最後に、本企画全体を通しての所感を、千葉寿室長に伺いました。

『新型コロナウイルスの影響も世界的に落ち着きを見せはじめ、岩手大学でも国内・国外との研究活動も活発化してきた。今回は岩手大学との協定校でもある「タイ王国キングモンクット工科大学ラカバン校」の技術系職員との技術交流であったが、今後も海外大学との共同研究や学生の交換留学等についても積極的に支援していければと考えている。』

我々技術職員は、なかなか海外の技術職員とコミュニケーションをとる機会を有することは難しい状況にあります。その中でも、このような有意義な企画で多くの経験を積めたことは幸いでした。今後の業務に活かしたいと考えているところです。

Written by 担当者一同
(2023.9.12)

X線回折装置の運用管理 その2

前回の記事:X線回折装置の運用管理 その1

この装置を利用して得られた分析結果は、学生実験の報告書や卒業論文、さらには学会発表や投稿論文として大学の外にも広く示されることになります。 そうした実情に鑑みると、XRD装置が果たしている役割は重要なものであり、最善の運用状態を長期に渡って保つことが求められます。このXRDは導入され てから1年程ですが、高価な分析機器ですので、装置が新しい現時点における管理の質こそが今後の劣化や寿命を左右します。こうした業務に携わっている技術 職員は、機器に対して長期に渡る責任を負っています。

さらには、学生や教員の方々からリクエストが寄せられた場合には、XRD装置の使用方法や分析のテクニックについてアドバイスをすることもありま す。これは装置の操作を正しく知って貰うことによって、誤使用などに起因する破損や故障を予防することが一つの目的です。それと共に、機器が数多く備えて いる応用機能に広く触れて貰うことが、分析作業の効率化や高精度化につながる場合もあるからです。実は分析する試料の性状によっては、「自動」分析よりも 「手動」分析を行った場合の方が、各々の材料に応じた一層信頼度の高い分析成果を生むこともあります。XRD装置の隅々までを理解し、その持てる能力を存 分に引き出す役割をも担っている側面が技術職員にはあるのです。

X線回折装置の運用管理 その1

工学部マテリアル工学科内にて共用している装置の一つに「X線回折装置(XRD)」があります。(→このXRDは何をする装置なのかについてはこちらへ)この機器は2010年3月に導入されて以来、教育用(自作した薄膜を分析する学生実験など)および研究用(試作した材料の元素分析など)として数多く利用されています。

この装置の最大の長所は、操作が容易な上に試料の分析を簡便に行えることです。簡素な装置ながら、非常に高度な結晶構造分析をも実現できます。XRD装置の測定原理は、これまで長らく活用されてきた言わば成熟したものですが、その用途は大変幅広く、また奥深いものです。

この機器に備わる全ての機能を常に万全の状態で利用できるように維持しているのが技術職員です。日頃から装置のコンディションをこまめに確認して、不具合の予兆を逃さずに把握し、それを未然に防ぐ対策を講じています。例えば、分析の際に強いX線を発する「X線管球」は発熱して高温となるため、冷却用の循環水として蒸留水を使用しています。この水量や水圧が許容範囲内にあるか否かは装置運転の可否に直結します。またこの循環水の冷却は空冷式で行われていますが、ファンモータの不具合やフィルタの目詰まり等による冷却機能の低下にも注意を払う必要があります。さらには循環水の水質など、チェック項目は多岐に渡ります。

つづき:X線回折装置の運用管理 その2

あなたは一体、何モノなの?

皆さんは他人である個人を識別するとき、どのようにしていますか?
知り合いならば恐らく「顔」を見れば、その人が誰だか分かりますよね。
もしかしたら「声」を聞くだけでも分かるかも知れません。
実は物質にも「顔」があります。
『はぁ? どこに?』

まぁ残念ながら、肉眼で見るにはチョット厳しい大きさですが・・・。
でも「ある道具」を使うと見られるんです。それが「X線回折装置」です。
では早速、その「顔」を見てみましょう。

『ダマされた・・・・、ただのグラフか・・・・・(怒)。』
おっしゃるとおり、ただの「グラフ」ですが、実はこれが物質の「顔」なのです。
しかも、左側の方は彫りのはっきりしたなかなかのナイス・ガイ(?)です。
『それじゃぁ~、どこが目で、鼻で、口なのよ~』と思った方は、まぁ冷静に。
もう一つ、右側の別の「顔」も見てみて下さい。
こちらはまた特徴的な「顔立ち」です。もしかしたら「ハーフ」か「クウォーター」かも。

これら二つの「顔(=グラフ)」の山と谷を比べてみると、皆さんも気づいたでしょう?
そう、この二つの物質が全くの「別人」であることに。
『まぁ、別な人だとは分かったけど、それじゃぁ、一体誰なのさ?・・・・』
確かにそこまで知りたいというのが人情ですよね。

もともと知り合いの人同士ならば、顔を見れば誰だか分かるし、その人の名前も知っているのが普通です。では、全くの見ず知らずの人だったらどうでしょうか?
初めて会った人だったとしたら、何の手がかりもないですよね。
もちろん名前なんて分かるはずもありません。

<チョット、break time>

最近、テレビでは「刑事ドラマ」が盛んに放送されていますね。
それにしても「イケメン刑事」ばかり・・・・(苦笑)。
刑事さん達は毎日、凶悪犯との攻防を繰り広げています。
その刑事さん達にとっても、必死に追いかけている犯人は見ず知らずの人です。相手が日本人なのかどうかすら分かりません。だから参考となる情報が是非とも欲しいわけです。
「プロファイリング」って言葉を皆さんは耳にされたことはありますでしょうか?
警察には過去に発生した事件のデータが蓄積されています。今まさに追跡すべき犯人が関わっている事件の特徴をこのデータベースと照合することによって、「犯人像」を導き出すという手法です。行動範囲、職業、年齢層、性別などなど、「顔」を知られていない犯人の姿を何となく浮かび上がらせることが出来ます。これを絞り込んで行くとやがて犯人の名前が分かり、そして「顔写真」が入手できることもあるでしょう。

<Now, time up>

「X線回折装置」には10万件の物質データが蓄積されています。
しかも全部「顔写真」付き。
『いゃ~、これで助かった。百人力だな。』
では早速、先の二つの物質の「顔」をデータ照合してみましょう。

すると、一人目は「Si(シリコン)」さん。

そして、二人目は「Al2O3(酸化アルミニウム)」さんだと判明。
(両者とも、赤色の「顔データ」に緑色の「蓄積データ」がピッタリと一致しています。)

『いやいや全く、手こずらせやがって・・・・。ついに正体を曝いたぞ(満足)。』
めでたし、めでたし。

でも実はこんなに上手く正体を突き止められるのは、珍しいこと。
現実の物質には様々な不純物が知らず知らずのうちに混ざり込んでいることが多いのです。
従って、『右から見ると「Aさん」なんだけど、左ナナメ下から見ると「Bさん」なんだよなぁ~』というケースに泣かされることもしばしばあります。

岩手大学にはこういうことができる最新の装置がありますよ。
皆さんも、物質の「顔」を一度、見てみませんか?

(著:材料機能技術分野メンバー)

X線回折装置のマニュアルを動画で作成

今年から,マテリアル工学科に導入されたX線回折装置(XRD)の管理者になりました.管理者に指定された段階でXRDの使用経験ゼロ! これってどうなのと思いながらも,XRDの講習会に参加し動画撮影しました.初めて使う装置だと講習会に参加しただけでは覚えられないので,こういう場合は個人的に動画として残すようにしてます.そして5時間くらいの動画を1時間くらいに編集し,希望する皆さんにお配りしました.(書けばあっという間ですが,編集はしんどかった) 苦労の甲斐あり,おかげさまで,ご好評をいただいております.動画にするとイメージがつきやすいですからね.

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