X線回折装置の運用管理 その2

前回の記事:X線回折装置の運用管理 その1

この装置を利用して得られた分析結果は、学生実験の報告書や卒業論文、さらには学会発表や投稿論文として大学の外にも広く示されることになります。 そうした実情に鑑みると、XRD装置が果たしている役割は重要なものであり、最善の運用状態を長期に渡って保つことが求められます。このXRDは導入され てから1年程ですが、高価な分析機器ですので、装置が新しい現時点における管理の質こそが今後の劣化や寿命を左右します。こうした業務に携わっている技術 職員は、機器に対して長期に渡る責任を負っています。

さらには、学生や教員の方々からリクエストが寄せられた場合には、XRD装置の使用方法や分析のテクニックについてアドバイスをすることもありま す。これは装置の操作を正しく知って貰うことによって、誤使用などに起因する破損や故障を予防することが一つの目的です。それと共に、機器が数多く備えて いる応用機能に広く触れて貰うことが、分析作業の効率化や高精度化につながる場合もあるからです。実は分析する試料の性状によっては、「自動」分析よりも 「手動」分析を行った場合の方が、各々の材料に応じた一層信頼度の高い分析成果を生むこともあります。XRD装置の隅々までを理解し、その持てる能力を存 分に引き出す役割をも担っている側面が技術職員にはあるのです。

X線回折装置の運用管理 その1

工学部マテリアル工学科内にて共用している装置の一つに「X線回折装置(XRD)」があります。(→このXRDは何をする装置なのかについてはこちらへ)この機器は2010年3月に導入されて以来、教育用(自作した薄膜を分析する学生実験など)および研究用(試作した材料の元素分析など)として数多く利用されています。

この装置の最大の長所は、操作が容易な上に試料の分析を簡便に行えることです。簡素な装置ながら、非常に高度な結晶構造分析をも実現できます。XRD装置の測定原理は、これまで長らく活用されてきた言わば成熟したものですが、その用途は大変幅広く、また奥深いものです。

この機器に備わる全ての機能を常に万全の状態で利用できるように維持しているのが技術職員です。日頃から装置のコンディションをこまめに確認して、不具合の予兆を逃さずに把握し、それを未然に防ぐ対策を講じています。例えば、分析の際に強いX線を発する「X線管球」は発熱して高温となるため、冷却用の循環水として蒸留水を使用しています。この水量や水圧が許容範囲内にあるか否かは装置運転の可否に直結します。またこの循環水の冷却は空冷式で行われていますが、ファンモータの不具合やフィルタの目詰まり等による冷却機能の低下にも注意を払う必要があります。さらには循環水の水質など、チェック項目は多岐に渡ります。

つづき:X線回折装置の運用管理 その2

あなたは一体、何モノなの?

皆さんは他人である個人を識別するとき、どのようにしていますか?
知り合いならば恐らく「顔」を見れば、その人が誰だか分かりますよね。
もしかしたら「声」を聞くだけでも分かるかも知れません。
実は物質にも「顔」があります。
『はぁ? どこに?』

まぁ残念ながら、肉眼で見るにはチョット厳しい大きさですが・・・。
でも「ある道具」を使うと見られるんです。それが「X線回折装置」です。
では早速、その「顔」を見てみましょう。

『ダマされた・・・・、ただのグラフか・・・・・(怒)。』
おっしゃるとおり、ただの「グラフ」ですが、実はこれが物質の「顔」なのです。
しかも、左側の方は彫りのはっきりしたなかなかのナイス・ガイ(?)です。
『それじゃぁ~、どこが目で、鼻で、口なのよ~』と思った方は、まぁ冷静に。
もう一つ、右側の別の「顔」も見てみて下さい。
こちらはまた特徴的な「顔立ち」です。もしかしたら「ハーフ」か「クウォーター」かも。

これら二つの「顔(=グラフ)」の山と谷を比べてみると、皆さんも気づいたでしょう?
そう、この二つの物質が全くの「別人」であることに。
『まぁ、別な人だとは分かったけど、それじゃぁ、一体誰なのさ?・・・・』
確かにそこまで知りたいというのが人情ですよね。

もともと知り合いの人同士ならば、顔を見れば誰だか分かるし、その人の名前も知っているのが普通です。では、全くの見ず知らずの人だったらどうでしょうか?
初めて会った人だったとしたら、何の手がかりもないですよね。
もちろん名前なんて分かるはずもありません。

<チョット、break time>

最近、テレビでは「刑事ドラマ」が盛んに放送されていますね。
それにしても「イケメン刑事」ばかり・・・・(苦笑)。
刑事さん達は毎日、凶悪犯との攻防を繰り広げています。
その刑事さん達にとっても、必死に追いかけている犯人は見ず知らずの人です。相手が日本人なのかどうかすら分かりません。だから参考となる情報が是非とも欲しいわけです。
「プロファイリング」って言葉を皆さんは耳にされたことはありますでしょうか?
警察には過去に発生した事件のデータが蓄積されています。今まさに追跡すべき犯人が関わっている事件の特徴をこのデータベースと照合することによって、「犯人像」を導き出すという手法です。行動範囲、職業、年齢層、性別などなど、「顔」を知られていない犯人の姿を何となく浮かび上がらせることが出来ます。これを絞り込んで行くとやがて犯人の名前が分かり、そして「顔写真」が入手できることもあるでしょう。

<Now, time up>

「X線回折装置」には10万件の物質データが蓄積されています。
しかも全部「顔写真」付き。
『いゃ~、これで助かった。百人力だな。』
では早速、先の二つの物質の「顔」をデータ照合してみましょう。

すると、一人目は「Si(シリコン)」さん。

そして、二人目は「Al2O3(酸化アルミニウム)」さんだと判明。
(両者とも、赤色の「顔データ」に緑色の「蓄積データ」がピッタリと一致しています。)

『いやいや全く、手こずらせやがって・・・・。ついに正体を曝いたぞ(満足)。』
めでたし、めでたし。

でも実はこんなに上手く正体を突き止められるのは、珍しいこと。
現実の物質には様々な不純物が知らず知らずのうちに混ざり込んでいることが多いのです。
従って、『右から見ると「Aさん」なんだけど、左ナナメ下から見ると「Bさん」なんだよなぁ~』というケースに泣かされることもしばしばあります。

岩手大学にはこういうことができる最新の装置がありますよ。
皆さんも、物質の「顔」を一度、見てみませんか?

(著:材料機能技術分野メンバー)

X線回折装置のマニュアルを動画で作成

今年から,マテリアル工学科に導入されたX線回折装置(XRD)の管理者になりました.管理者に指定された段階でXRDの使用経験ゼロ! これってどうなのと思いながらも,XRDの講習会に参加し動画撮影しました.初めて使う装置だと講習会に参加しただけでは覚えられないので,こういう場合は個人的に動画として残すようにしてます.そして5時間くらいの動画を1時間くらいに編集し,希望する皆さんにお配りしました.(書けばあっという間ですが,編集はしんどかった) 苦労の甲斐あり,おかげさまで,ご好評をいただいております.動画にするとイメージがつきやすいですからね.

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